法と文化と邪神ちゃん二次創作

所属とコンプライアンスの関係

それが良いことかどうかは別として、多くの場合において人は法律よりも所属する組織やコミュニティの文化やノリを優先する傾向がある。

具体的には、以下のようなものは全て 法律よりも文化・ノリが優先された結果 と言えるのではないかと思う。

  • 企業組織
    • 東芝の不正会計問題
    • ビッグモーターの保険金不正請求問題
    • ダイハツの試験不正問題
  • 学校等
    • いじめ
    • 集団による万引き・窃盗
  • 趣味グループ
    • 鉄道界隈における撮り鉄問題
    • アイドル界隈における悪質ファン問題

このように一般的に社会で NG とされている行為が集団になった途端許されているように錯覚し、気がつけば犯罪を犯しているパターンが数多く見受けられるように思う。

これは集う人間の利害関係が一致しているが故に利益を実現する方法に対して倫理観が働かなくなってしまった結果起きる現象であり、一種のエコーチェンバー現象のようなものだろう。

二次創作とコンプライアンス

上記に似た現象は二次創作界隈でも見受けられることがある。

原作側が明確なガイドラインを示していない場合二次創作行為そのものは著作権法ではグレー (親告罪適用の範囲のため) であるが、明確にガイドラインに違反しているパターンも存在する。

例えば 邪神ちゃんドロップキック の二次創作を行うことを考えてみる。邪神ちゃんドロップキックは COMIC メテオ で連載されている作品であるから、 COMIC メテオ運営元である出版社 フレックスコミックス の画像使用・著作権のガイドラインが適用される。

現時点 (2024-03-14) のガイドラインを引用すると、次のようになっている。

画僧使用・著作権|フレックスコミックス株式会社

フレックスコミックス株式会社の出版物、および弊社ホームページ上の画像・文章・漫画

キャラクター等はいずれも著作物であり、著作権法によって権利が守られています。したがいまして、著作権法に定めのある使用方法以外は、権利者の許諾がない限り、インターネットやイントラネット上で以下のような行為をすることは禁じられています。

1.出版物の装丁・内容・目次等、の全部または一部を掲載・転載すること。

2.ホームページ上の画像・文章・漫画・キャラクター等の全部または一部を掲載・転載すること。

3.出版物やホームページ上の文章・漫画等の要約を掲載すること。

4.出版物やホームページ上の画像・文章・漫画・キャラクター等をもとに作成した漫画・小説・文章等を掲載すること。

5.出版物やホームページ上の画像・漫画・キャラクター等を使用・改変した自作画(イラスト・パロディ等)を掲載すること。

6.出版物やホームページ上の画像・漫画・キャラクター等、およびそれらを改変した自作画から、壁紙・アイコン・コンピューターソフト等を作成し、掲載すること。

なお、この引用が 3 の ホームページ上の画像・文章・漫画・キャラクター等の全部または一部を掲載・転載すること。 に抵触しないかについては、著作権法上の正当な引用の範囲であるから問題ないと考えている。

著作権法|e-Gov法令検索

(引用)

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

ただし条文の通り、この引用が 公正な慣行に合致 している必要がある。上記の引用が 公正な慣行に合致 しないと思う人が居ることは何らおかしな話ではないし、必要であれば裁判所に訴えることができる。しかし、これは その著作物の権利を有する者にしかできない。

話を戻す。上記の通りフレックスコミックスは明確にガイドラインを提示しており、これらに違反する行為を行うことは禁じられている (違反していた場合には訴えられるリスクがある) と考えるべきだろう。

では実際の運用はどうなっているだろうか?

上記ガイドラインでは、 出版物やホームページ上の画像・文章・漫画・キャラクター等をもとに作成した漫画・小説・文章等をインターネット・イントラネット上に公開すること を禁じていると読み取れる。つまり、 SNS にファンアートを掲載するだけでもガイドラインに違反することになる。

誰がそんな世界を望んでいるのかという問題は別として、 少なくともガイドライン上は明確に違反行為だ。

しかし一方で、邪神ちゃんドロップキックという作品は公式に二次創作活動をすることを推奨している側面がある。これはコミックマーケットに邪神ちゃんの二次創作本を出すとアニメ制作チームが頒布物を購入したり、公式同人誌即売会イベントが実施されていることからも明らかであるし、実際に作者であるユキヲ氏やアニメ公式アカウントからも二次創作を促進・推奨するようなポストが多数されている。以下はその例だ。

このように、得てしてガイドラインというものは矛盾を抱えていることが多い。

「邪神ちゃん」における現行ガイドラインの理解

実際に矛盾している状況はともかく、現在の邪神ちゃんドロップキックにおける二次創作の線引は以下になると思われる。

  • インターネット・イントラネット (社内ネットワーク等) に二次創作をアップロードするのは NG
    • X (旧: Twitter), pixiv などはもちろんクローズドな場であってもダメ
    • イラストじゃなくてもキャラクターや設定を利用しているものはダメ
      • 極端な話、カップリング等の妄想小説でもダメ
  • 二次創作同人誌を頒布するのは 制限していない
    • 許可されているわけではない ことに注意。あくまでも 明確に禁止されていない だけ
    • ただし、ダウンロード版は インターネット上に公開している ので NG だろう

ただし何度も言うように、 誰もこんな運用になることを望んでいるようには思えない。

注意してほしいのは、これはガイドラインが間違っているという指摘ではないことだ。多くの作品の権利を管理し、不要な問題が発生するのを避けるためにも、このようなガイドラインが制定されるのは何らおかしなことではない。

そもそも、世の中の大半の決まり事はこういう矛盾を抱えていることが多い。そしてその矛盾を抱えつつも最大限多くの人が納得できるように法制度は整備されており、著作権法が親告罪となる理由はそこにあるのではないだろうか。

法と文化のどちらを優先すべきか

法と文化のどちらを優先すべきかはかなり難しいことがわかると思う。基本的に法は絶対であるが、グレーゾーンまでも黒と位置づけてしまうと誰も得しない結果になりかねないからだ。少年法の存在もそのあたりが関係しているのだろう。 (もちろん廃止すべきだという人も居るが)

法と文化は水と油のようなものであることが多い。同性婚を認めないことや選択的夫婦別氏制度を導入しないことは人権侵害だ、という主張があるところに婚姻制度という文化の破壊だという反論があるのもそれを象徴していると言えるのではないか。

では、法と文化のどちらを優先すべきなのか。これはかなり難しいと思うし、答えがないと思う。だいたいが 時と場合による としか言えないのではないだろうか。

ただし、文化の衝突を避けることは重要だ。法と文化が衝突するのは仕方ない側面があるが、文化同士が衝突してもろくな結末にならないことが多い。

創作界隈・同人界隈における二次創作文化

邪神ちゃんセリフ逆引き辞典問題 については、紛れもない文化の衝突であったと思う。おそらく長らく同人活動をしてきた人からすれば、私のやろうとしていたことは文化を踏みにじる行為に思えるのだろう。これは当人の 同人誌は作品の愛から生まれるものであって、ただのコピーとは違うからね。 という発言からも読み取れる。

相手からガイドライン違反を指摘された際に、私はダウンロード版同人誌の頒布もガイドラインに違反しているのでは、という指摘を行ったのだが、それについて根拠なく BOOTH で行う場合は合法である 、と言われたのも同人文化の解釈の違いによるものだと考えれば納得がいく。

結局、この問題は同人活動における各々の信条が異なることが原因で起きた衝突であり、理詰めで議論したところで一生平行線を辿るだけだっただろう。

創作村において、時として掟 (同人文化) は法 (ガイドライン) を上回ることがあるということを知った一件だった。

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